年齢を重ねるごとに眠りの質が変わってきた、夜中に何度も目が覚める、朝早く目が覚めてしまう──そんな睡眠の悩みを抱えている高齢者の方は少なくありません。しかし、適切な知識と対策を身につけることで、年齢に関係なく質の高い睡眠を取り戻すことは可能です。
このガイドでは、最新の科学的知見に基づき、高齢者特有の睡眠パターンから効果的な改善方法、そして実際に役立つ快眠グッズまで、包括的にお伝えします。
※この記事の内容は、公的機関および医療機関の信頼できる情報源に基づいて作成しています。個人の健康状態に応じた運動等については、医師や理学療法士等の専門家にご相談ください。

高齢者の睡眠の特徴とメカニズム
加齢による睡眠パターンの変化
高齢になると、睡眠に関する生理的な変化が起こります。これらの変化を理解することで、適切な対策を立てることができます。
まず、睡眠の構造自体が変化します。若い頃と比べて深い眠り(徐波睡眠)の時間が短くなり、浅い眠りの時間が長くなる傾向があります。また、概日リズム(体内時計)の前進により、早寝早起きのパターンになりやすくなります。
さらに、睡眠効率の低下も特徴的です。ベッドにいる時間に対して実際に眠っている時間の割合が減少し、夜中に覚醒する回数が増加します。
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、高齢者の睡眠の推奨事項について詳しく解説されています。
参考文献:厚生労働省「睡眠対策」
高齢者に多い睡眠障害の種類
高齢者が経験しやすい睡眠障害には、以下のような種類があります:
入眠困難:ベッドに入ってから30分以上眠れない状態が続く症状です。心配事や身体的な不調が原因となることが多く、日中の活動量不足も関係しています。
中途覚醒:夜中に何度も目が覚めてしまう症状で、高齢者の約8割が経験すると言われています。膀胱の機能低下や痛みなどの身体的要因が主な原因です。
早朝覚醒:望ましい時刻よりも2時間以上早く目が覚めてしまう症状です。体内時計の変化により、高齢者に特に多く見られます。
睡眠時無呼吸症候群:睡眠中に呼吸が止まる症状で、高齢者では約3割が軽度以上の症状を持っているとされています。
これらの睡眠障害は、単独で現れることもあれば、複数が組み合わさって現れることもあります。症状が続く場合は、専門医への相談が重要です。
厚生労働省の最新ガイドラインでは、高齢者の睡眠・休養の推奨事項が詳しくまとめられています。

科学的根拠に基づく睡眠改善方法
生活リズムの調整方法
高齢者の睡眠改善において、生活リズムの調整は最も重要な要素の一つです。以下の方法を実践することで、体内時計を整えることができます。
規則正しい起床時間の設定が基本となります。毎日同じ時間に起床することで、体内時計が安定し、自然な眠気のリズムを作ることができます。休日も平日と同じ時間に起きることが理想的です。
朝の光を浴びる習慣も重要です。起床後30分以内に太陽光を浴びることで、体内時計がリセットされ、夜の眠気を促すメラトニンの分泌リズムが整います。曇りの日でも窓際で過ごすだけで効果があります。
昼寝の時間と長さの調整も大切です。昼寝をする場合は、午後3時までに30分以内に抑えることで、夜の睡眠に影響を与えません。1時間以上の昼寝は夜の睡眠を妨げる可能性があります。
夕方以降の過度な光の回避も効果的です。特に就寝2時間前からは、スマートフォンやテレビの画面から発せられるブルーライトを避け、間接照明を使用することで、自然な眠気を促進できます。
適切な運動習慣の確立
高齢者にとって適度な運動は、睡眠の質を向上させる最も効果的な方法の一つです。ただし、運動の種類と時間帯を適切に選ぶことが重要です。
有酸素運動の推奨:散歩、軽いジョギング、水中歩行などの有酸素運動を週3回以上、1回30分程度行うことで、深い眠りを促進できます。運動強度は「少しきつい」と感じる程度が適切です。
筋力トレーニングの併用:週2回程度の軽い筋力トレーニングを併用することで、筋力維持と睡眠の質の向上を両立できます。椅子に座ったままできる運動も効果的です。
運動の時間帯:就寝3時間前までに運動を終えることが重要です。夕方の運動は体温を上げ、その後の体温低下が自然な眠気を促します。
ストレッチやヨガ:就寝前1時間以内には、ゆっくりとしたストレッチやヨガなどのリラクゼーション運動が効果的です。
食事と睡眠の関係性
食事のタイミングと内容は、睡眠の質に大きく影響します。特に高齢者は消化機能が低下しているため、より注意深い食事管理が必要です。
夕食の時間と量:就寝3時間前までに夕食を済ませることで、消化活動が睡眠を妨げることを防げます。夕食は腹八分目に抑え、脂肪分の多い食事は避けることが推奨されます。
睡眠を促進する食材:トリプトファンを含む食材(牛乳、チーズ、バナナ、アーモンド等)は、睡眠ホルモンであるメラトニンの原料となります。夕食や就寝前の軽食に取り入れることで、自然な眠気を促進できます。
水分摂取の調整:就寝2時間前からは水分摂取を控えることで、夜間の頻尿を予防できます。ただし、脱水症状を避けるため、日中の水分補給は十分に行うことが重要です。
カフェインとアルコールの制限:カフェインは就寝6時間前まで、アルコールは就寝3時間前までに摂取を控えることで、睡眠の質を向上させることができます。
睡眠時間の重要性に加え、質の良い睡眠確保のための留意点について、厚生労働省の最新ガイドラインで詳しく解説されています。

高齢者におすすめの快眠グッズ
寝具選びのポイント
高齢者の快適な睡眠には、適切な寝具選びが不可欠です。身体の変化に対応した寝具を選ぶことで、睡眠の質を大幅に改善できます。
マットレスの選び方:高齢者には、適度な硬さと体圧分散性能を持つマットレスが推奨されます。柔らかすぎるマットレスは寝返りが困難になり、硬すぎるマットレスは関節に負担をかけます。体重の10%程度の沈み込みが理想的です。
枕の重要性:首や肩の負担を軽減する枕選びも重要です。横向き寝が多い高齢者には、肩幅に合わせた高さの枕が適しています。素材は通気性が良く、適度な弾力性があるものを選びましょう。
掛け布団の選択:軽量で保温性の高い掛け布団が推奨されます。羽毛布団は軽くて暖かく、体への負担が少ないため高齢者に適しています。季節に応じて調整できる2枚合わせタイプも便利です。
シーツと枕カバー:肌触りが良く、吸湿性・放湿性に優れた天然素材(綿、麻、シルクなど)を選ぶことで、快適な睡眠環境を維持できます。
睡眠環境を整える機器
現代の技術を活用した睡眠環境の改善機器も、高齢者の睡眠の質向上に大きく貢献します。
加湿器・除湿器:室内の湿度を50-60%に保つことで、快適な睡眠環境を作れます。乾燥は咳や鼻詰まりの原因となり、高湿度はカビやダニの発生を促進するため、適切な湿度管理が重要です。
空気清浄機:アレルギーや喘息を持つ高齢者には、HEPA フィルター搭載の空気清浄機が効果的です。花粉やハウスダスト、PM2.5などの微粒子を除去し、呼吸器の負担を軽減できます。
遮光カーテン:外光を遮断することで、メラトニンの分泌を促進し、深い眠りをサポートします。特に街灯や車のライトが気になる寝室では、遮光率99%以上のカーテンが推奨されます。
ホワイトノイズマシン:一定の周波数の音を発生させることで、外部騒音をマスキングし、リラックスした睡眠環境を作ります。雨音や波音などの自然音も選択できる機器が人気です。
睡眠サポートグッズ
日常的に使用できる睡眠サポートグッズも、高齢者の睡眠改善に役立ちます。
アイマスク:完全な暗闇を作ることで、メラトニンの分泌を促進し、深い眠りを誘発します。シルクや綿などの天然素材で作られた、肌に優しいものを選びましょう。
耳栓:騒音を遮断し、途中覚醒を防ぎます。シリコン製やウレタン製など、耳の形に合わせて変形する素材が快適です。長時間使用しても耳が痛くならないものを選ぶことが重要です。
足枕・膝枕:血行を促進し、足のむくみや腰痛を軽減します。仰向け寝の際に膝の下に置くことで、腰への負担を減らし、快適な睡眠姿勢を保てます。
アロマディフューザー:ラベンダーやカモミールなどのリラックス効果のある精油を使用することで、自然な眠気を促進できます。就寝30分前から使用することで、睡眠への導入がスムーズになります。
温度調整グッズ:電気毛布や冷感マットなど、体温調節をサポートするグッズも効果的です。ただし、電気毛布は就寝時には電源を切り、タイマー機能を活用することで、自然な体温リズムを維持できます。
安眠グッズの選び方について、寝返りがしやすく体への負担の軽減につながるものを選ぶことが重要とされています。

日常生活での実践的な睡眠改善テクニック
就寝前のルーティン作り
高齢者の睡眠改善において、規則正しい就寝前のルーティンは非常に効果的です。毎日同じ行動パターンを続けることで、脳が睡眠モードに切り替わりやすくなります。
2時間前からの準備:就寝2時間前からは、テレビやスマートフォンの画面を見ることを控え、間接照明に切り替えます。この時間帯は、読書や軽いストレッチ、音楽鑑賞など、リラックスできる活動に専念しましょう。
1時間前の入浴:就寝1時間前に38-40℃のぬるめのお湯で10-15分間入浴することで、体温の自然な低下を促し、眠気を誘発できます。熱すぎるお湯は逆に覚醒を促すため注意が必要です。
30分前の準備:寝室の温度を18-22℃に設定し、湿度を50-60%に調整します。また、明日の準備を済ませることで、心配事を減らし、リラックスした状態で眠りにつけます。
就寝直前の儀式:深呼吸や軽い瞑想、感謝の気持ちを振り返るなど、心を落ち着かせる短い儀式を行うことで、睡眠への移行がスムーズになります。
ストレス管理と睡眠の関係
高齢者の睡眠障害の大きな原因の一つがストレスです。効果的なストレス管理を行うことで、睡眠の質を大幅に改善できます。
心配事の整理:就寝前に心配事や明日のタスクを紙に書き出すことで、頭の中を整理し、眠りにつきやすくなります。この「頭の中の整理」は、不安による入眠困難を解消する効果があります。
リラクゼーション技法:腹式呼吸や漸進的筋弛緩法などのリラクゼーション技法を身につけることで、就寝前の緊張をほぐすことができます。特に腹式呼吸は、副交感神経を優位にし、自然な眠気を促進します。
適度な社会的交流:孤独感やうつ状態は睡眠の質を大きく低下させます。家族や友人との交流、地域活動への参加など、適度な社会的交流を保つことで、精神的な健康と睡眠の質を向上させることができます。
趣味や生きがいの維持:日中に楽しみや達成感を感じることで、精神的な満足感が得られ、質の良い睡眠につながります。読書、園芸、手芸など、自分のペースで取り組める趣味を持つことが重要です。
中途覚醒時の対処法
高齢者に多い中途覚醒に対する適切な対処法を身につけることで、睡眠の質を保つことができます。
時計を見ない:夜中に目が覚めた際、時計を見ることで「まだこんな時間だ」という不安やストレスが生じ、再入眠を妨げます。時計は見えない位置に置くか、表示を消すことが推奨されます。
20分ルール:ベッドに横になって20分経っても眠れない場合は、一度ベッドから出て、別の部屋で静かな活動(読書、音楽鑑賞など)を行い、眠気を感じてから再度ベッドに戻ります。
深呼吸とボディスキャン:ベッドの中で深呼吸を行い、足先から頭まで順番に体の各部位に意識を向ける「ボディスキャン」を行うことで、緊張をほぐし、再入眠を促進できます。
トイレ問題への対策:夜間の頻尿が原因の場合は、寝室近くにポータブルトイレを設置したり、足元灯を設置したりして、安全で快適にトイレに行けるようにします。転倒リスクを減らすことも重要です。

専門的なサポートが必要な場合
医療機関への相談が必要な症状
適切な睡眠習慣を実践しても改善されない場合は、医療機関への相談が必要です。以下の症状がある場合は、専門医に相談することをお勧めします。
継続的な不眠:適切な睡眠環境と習慣を3週間以上続けても、入眠困難や中途覚醒が改善されない場合は、睡眠障害の可能性があります。
日中の過度な眠気:十分な睡眠時間を確保しているにも関わらず、日中に強い眠気を感じる場合は、睡眠時無呼吸症候群やナルコレプシーなどの疾患の可能性があります。
いびきと呼吸停止:大きないびきや、睡眠中の呼吸停止を家族に指摘された場合は、睡眠時無呼吸症候群の可能性が高く、早期の診断と治療が重要です。
足のむずむず感:就寝時に足に不快感やむずむず感を感じ、動かさずにいられない場合は、レストレッグス症候群(むずむず脚症候群)の可能性があります。
睡眠中の異常行動:睡眠中に大声で話したり、激しく動いたりする場合は、レム睡眠行動障害の可能性があります。
睡眠外来での検査と治療
睡眠障害の疑いがある場合、睡眠外来での専門的な検査と治療が効果的です。
睡眠ポリグラフィー検査:睡眠中の脳波、心電図、呼吸、筋電図などを総合的に記録し、睡眠の質と睡眠障害の有無を詳しく調べます。
在宅睡眠時無呼吸検査:自宅で行える簡易的な検査で、睡眠時無呼吸症候群の診断に用いられます。
アクチグラフィー:腕時計型の装置を1-2週間装着し、睡眠・覚醒パターンを客観的に評価します。
治療オプション:
- CPAP療法(睡眠時無呼吸症候群)
- 薬物療法(適切な睡眠薬の処方)
- 認知行動療法(CBT-I)
- 光療法(概日リズム障害)
睡眠休養感が得られない場合は、睡眠障害が隠れている場合があるため、医療機関への受診が推奨されています。

まとめ:質の高い睡眠を取り戻すために
高齢者の睡眠改善は、単一の方法では解決できません。生活習慣の見直し、適切な寝具選び、ストレス管理、そして必要に応じた医療サポートを組み合わせた総合的なアプローチが重要です。
段階的な改善を心がける:すべての方法を一度に実践するのではなく、まず生活リズムの調整から始め、徐々に他の方法を取り入れることで、無理なく睡眠の質を向上させることができます。
個人差を理解する:睡眠の最適な時間や方法は個人によって異なります。自分の体調や生活スタイルに合わせて、最適な睡眠習慣を見つけることが大切です。
継続することの重要性:睡眠の改善は短期間では実感できない場合があります。少なくとも3週間は継続して実践し、効果を判断することが重要です。
専門家との連携:改善が見られない場合は、遠慮なく医療機関に相談しましょう。適切な診断と治療により、大幅な睡眠の質向上が期待できます。
質の高い睡眠は、健康で充実した高齢期を送るための基盤となります。このガイドで紹介した方法を参考に、あなたに最適な睡眠習慣を見つけ、毎日を活力あふれるものにしてください。
良い睡眠は、単なる休息ではなく、心身の健康を維持し、人生の質を高める重要な時間です。今日から実践できる方法から始めて、理想的な睡眠を手に入れましょう。
※睡眠障害が疑われる症状が続く場合や、持病等をお持ちの方は、必ず医師にご相談ください。この記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の医療アドバイスに代わるものではありません。

